ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

『保守主義とは何か』を読む。

世界各国で外国人排斥の動きが高まっている。アメリカの大統領候補ドナルド・トランプはアメリカ第一主義を掲げ、「偉大なアメリカを取り戻す」と息巻いている。古き良きアメリカを取り戻してくれると期待する白人層からの支持は絶大だ。メキシコとの国境に壁を作るんだそうだ。フランスではルペン党首率いる国民戦線の支持率も急上昇。テロへの非難から移民の抑制・排斥の訴えが、フランスの右派(保守層)を取り込んで勢力を拡大している。フランス革命が生んだ自由や平等といった価値観は以前にもまして普及してきたはずなのに、差別的非人道的な主張が支持されるのはなぜだろうか。

 

保守的な動きは政治だけにとどまらない。ネットの登場で便利になったサービスに、ノーを訴える人達がいる。ウーバーに反対するタクシー業界。エアービーアンドビーに反対するホテルなど。テクノロジーの発展によってより良い社会が実現するはずなのに、利益を失ってしまう立場にいる集団は断固として進歩に反対していく。伝統・文化・歴史を守らなければならない、というのだ。

 

普遍的な価値観、科学的な革新に断固として反対していく人達は、はたして自分の利益だけを考えて保守を名乗るのだろうか。社会が不安定な時ほど、保守への支持は高くなると誰かが言っていたが、現代社会は10年前よりも格段に進歩しているのに彼らは何が不満なのだろうか。

 

よく新聞やニュースで目にする「保守主義」の定義について考えてみる。保守=後ろ向きな考えではないはずだが、感覚的にそんな印象だ。何か自分に不都合なことが起きたときに、その理由として文化・伝統・歴史などを出して言い訳しているように聞こえて仕方がない。だから自分は保守的かといわれると、違うということにしている。感覚的にしか保守を感じられない。その感覚的なものが、より明確になれば私の頭もスッキリするだろうし、実は私は保守的な人間なのかもしれない。

 

ノート1:エドマンド・バークの保守の定義

・具体的な制度や慣習を保守しようとする。

・そうした制度や慣習が歴史の中で培われたと認識している。

・普遍的な価値よりも、個人の自由を維持しようとする。

民主化を前提としながら、秩序ある漸進的改革を求める。

 

 ノート2:フランス革命への反対

・革命は民主的ではなく、急進的な改革である。

・急激な変化は、歴史の断絶であり、国のベースとなる制度や慣習を破壊する。

・制度や慣習は長い歴史の中で、改革を繰り返しながら培われた人間の英知である。 

・伝統や文化を見つめ直し、その時代にあった新しい制度を構築すべきである。

エドマンド・バークはこの点において、イギリスの名誉革命を賞賛している。

 

 ノート3:社会主義への批判

ハイエクが批判したのは、国家の役割の増加ではなく、集産主義にあった。

・集産主義の国家では、”民間企業の廃止”・”私有の撤廃”・”計画経済の創設”が行われる。 

・背景には、人間を一般化し、単一の価値体系が存在することを前提とした思想があった。

・全員が単一の目的を追う社会ではなく、個人が自己の目的を選択できる社会を作る(自由主義思想)。単なる競争による市場の活性化ではない。

 

ノート4:大きな政府への批判

ミルトン・フリードマンの『選択の自由』が大きな政府の障害を説く。

・政府の役割が増えることで、特殊利益が増えるという考え方。

・例えば、高齢者への医療費負担を減らす。そうすると、高齢者という特定の人の利益が生まれる。政府は高齢者が本来負担すべき費用を、それ以外の人から徴収する(税金という形で)。

・一度、特殊利益を得ると、利益自体が自己目的化するのでなかなか削ったり、やめたりできない。

・そうして最終的に一般利益の損につながる。

 

ノート5:日本の保守主義について

・日本の保守思想は曖昧である。

丸山眞男:日本には座標軸が欠如している。色んな文化・思想を取り入れてきた。

・にもかかわらず、それが蓄積されず意識の底にあって「突発的に」しか思い出されない。

福田恆存:日本の歴史を貫く思想的な連続性が欠如している。

・日本の保守政治には①吉田ドクトリン:経済成長・反共と②岸信介:戦後のシステムへの反発という二つの流れがある。

 

保守主義というのは、合理主義による人間の無条件の進歩に反対の立場である。啓蒙思想によって近代ヨーロッパは、人間の理性への礼賛・合理主義に邁進する。確かに、人間の理性や科学の進歩は人類をこの上なく豊かにした。しかし、一方で大きな戦争を2度も経験し、いまだに貧富の差はなくならないし、争いも絶えない。やっぱりそこには、人間の理性には限界があることを認めなければならない。精神性・心・慣習・歴史など、そうした部分も考慮しなければならない、というのが保守の考え方のようだ。

 

この考えに基づけば、私も保守主義だ。なんとなく、誰もが”人間の理性の限界”は認めているだろう。もう、このご時世、人間万能主義なんて誰も思ってない。日本のみならず世界で進歩主義(左といわれる人達)の勢いが陰っている背景には、人間は合理的に動かないという事がわかってきたからだろう。

 

だから、今後は保守主義の時代になる。問題はそれがどこまで極端かということ。宗教への依存が強くなると、原理主義くらいまで過激になるだろうし、自国民の歴史・文化にアイデンティティを求めすぎると、外国人排斥や人種差別につながるし。何事も中庸がベスト。エドマンド・バークが言うように、その社会の制度や慣習をベースに漸進的に世の中を変えていくことが正しい気がする。