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ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

人間の不可解さ『月と六ペンス』を読む。

昔から大好きだった布袋寅泰のライブチケットを手に入れた。ほとんど音楽は買わないけれど、彼の作品は毎回買っている。中学生の時、友達のお兄ちゃんが貸してくれたCDにはまって、それ以来20年ファンだ。ギターを弾く姿があんなに画になるアーティストはいない。唯一無二の存在だ。

 

彼の初期の作品で『BEAT EMOTION』という曲がある。その歌詞に「まずまずの人生をこのまま送るか、二度とない人生を求め続けるか」という一節が好きだ。人間やっぱり、なんだかんだで落ち着くところに落ち着くものだ。なかなかに普通の暮らしに背を向けて自分の生き方を求めていくなんてできっこない。そういうことができるのはきっと彼のようなアーティストなんだろう。地位や名声よりも”自分の考える美しさ”のために生きようとするのだ。それが芸術なのかもしれない。どこか憧れる。

 

人間は不可解だ。人間を合理的に説明できると考え、普遍的な価値観をはめ込んでみるが、なかなかそうは行かない。いつだって常軌から外れることをする人間はいる。だからこそ奇跡が生まれ、芸術が生まれるのだろう。モームの『月と六ペンス』を読んでそう感じた。

 

ノート:ざっくりとあらすじ

・イギリス人作家(一人称で語られる)が、画家ストリックランドの奇妙な半生を描く。

・ストリックランドはロンドンで商売をしていた。結構な金持ちで奥さんも「女性は

働かず家を守る」的な女性だった。

・ある日突然、ストリックランドは家をでる。奥さんには新しい女ができたと言って。

・実は駆け落ちは見せかけで、ストリックランドはフランス・パリで画家として生活を始める。

・働かず、絵だけを描き続けるが、別にだれに評価されたいでもなく、貧困になり病気で死にかけるまでひたすら絵を描き続ける。

・彼の作品に心を奪われた、オランダ人画家夫妻が何かと面倒を見てくれていたにもかかわらず、その画家の奥さんを寝取って最終的に自殺にまで追い込む。

・その後彼は、タヒチに移住し原住民と森の中で生活し、幻想的な自然の神秘の中で、絵を描き続ける。自分の死が近くなると、家の壁全体に絵を描きはじめ、完成とともに亡くなる。しかし完成された大作は彼の遺言により家ごと燃やされてしまった。

・死後、彼の作品は評価され、ものすごい高値で売られることになる。

 

とにかく彼の興味は自分の思う美しさを探究する。この一点につきる。それ以外には何にも興味がない。普通は、「世間がどう思うと勝手だ」と言ったって、心の中ではやっぱり気にするもんだが、彼は本当に純粋に世間の風を屁とも思わないらしい。

 

そのくせ、世間が彼を放っておかないことをいいことに、周りを巻き込みながら自由気ままに絵だけを描いて生きていくのである。彼は本当に、有名な画家になりたいと思ったのではなく、純粋に自分の見る美しさを表現したかった。ここまでピュアな気持ちで生きて行けたら、どんなに大変な目に遭っても、苦悩の果てに光が見えるのだろう。

 

「普通はこうするだろうよ」と自分の理屈で展開を読んでいくと、ストリックランドの行動がますます理解できない。あらためて人間は合理的ではないなと思わざるを得ない。だからこそ人を魅了する力があるのだろう。

 

アーティストの凄さというか、人間が芸術を産む核というか。そんなことを考えてしまった。あこがれの布袋寅泰は奇しくもロンドンに住んでいる。この作品を読みながら、新しいアルバムを聞き入る夏の夜であった。