ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

日本の非効率性について 『イギリス人アナリスト日本の国宝を守る』を読む。

著者のデービッド・アトキンソンは元ゴールドマンサックスのアナリストで、現小西美術工藝社の代表取締役だ。オックスフォード大学時代に日本について勉強をしていた縁もあってゴールドマンサックス時代に日本の担当になった。バブル後の不良債権処理に日本の銀行と共に取り組んできた経験をもとに、日本人・日本企業の問題点を鋭く指摘する。

 

彼の痛烈な批判の対象になっているのは経営者だ。日本人の勤勉さ、心遣いなどには尊敬の念を持ち、自身も日本人が好きであることを強調している。日本の経営者の質がより高くなることで、日本の経済はもっと成長するという。日本人は労働者が勤勉で優秀だから経営者が何もしなくても回っている。一方、アメリカは労働者の質が悪い分、経営者の質が非常に高い。超高齢化社会で成長し続けるには、経営者の仕事に対する考えや行動を変えていかなければならない。

 

日本の経済の効率の悪さは、世界の先進国の中でもトップレベルだ。非効率の根本的な原因は「数字に基づいた分析と、細かい改善をしない」ことだ。感情論で意思決定をして、その結論を裏付ける数字を意図的に使う。シンプルアンサーが好きで、アベノミクスで経済が良くなる・悪くなるといった単純明快な議論しかしない。やることが明確になったとしても、手続きが面倒だとか、前例がないという理由をつけてやらない。こうした日本人の特徴が非効率を招いている。

 

一方で、日本はすごい国だという論調には喜んで食いつく。おもてなしの国だ、高い技術がある国だといった調子で、その主張にあうデータを並べて自己満足している。この自己満足が時に、相手側の都合を無視したサービスや営業になっていることもありうる。手続きの完璧さとか、カスタマーへの要求(~禁止です、~を控えてください、など)が非効率の原因になっている。

 

 

 

私なんか特に外国人に弱い人間だ。本能的に欧米の人の発言は鵜呑みにする方だ。劣等感があるのだろうか。英語の問題もあると思うが、言われると受け入れてしまいがちだ。誰か他の人に指摘されるほうが、仲間内で言い合うよりも素直に聞けるという気がする。

 

経営者への提言のように書かれていたが、私のような(私も一応経営者か)一般人にも当てはまると思う。そもそも日本人は自分の意見を否定されるのをものすごく嫌う気がする。仕事でちょっと指摘すると、すぐ膨れた顔になる従業員を思い出す。「別に、あなたの人格を否定してるんじゃないんだが」とフォローを入れても終始不機嫌な始末。

 

自分の意見が正しくて、それを正当化する材料だけを用意する。私もこれに当てはまっちゃっている。自分の都合に合わせて論理をつくるのは得意だ。

 

これはやはり恐ろしい。要は、もう考えることをしたくないという事の表れだろう。売上が伸びないのは、お客さんの質が悪いからだ。だからお客さんの質を良くしましょう。いやちょっと待て、本当に売上が伸びないのはお客さんの質が問題なのか?どの、いつの、何の売上が悪いのか?こうした議論にまで発展しない。だってスタッフは、原因は絶対「お客さんの質」だと言い切るのだ。そして客質が悪かった事例だけを延々と話す。彼女にとっては面倒くさいのだ、そこまで考えるのが。

 

商売でも私生活でも政治でも、結論ありきで話が進むことが多い気がする。どうしたら彼の提言する「数字に基づいた分析と、細かい改善」ができるようになるのだろうか。二つの事を心がけてみようと思う。一つは、自省すること。もう一つは、疑問を持つこと。

 

何かが起きたとき、自分でまず反省をする。自分のどこが良くなかったか。何か議論をするとき、立場をすぐに明確にせず質問を作ってみる。何が問題なのか、議論の目的は何なのか。

 

いつもやっているつもりだが、考える前に答えを持っている場合が多い。デービット・アトキンソン氏の鋭い指摘にドキッとしてしまった。これを身内に言われたら、「はぁ、おまえに言われたくないわ」と吠えるだろうが、彼はゴールドマンサックスのアナリスト。世界的に有名な投資銀行のアナリストだもの、数字に基づく分析の力を語られたら、権威・肩書きに弱い私などすぐに受け入れるだろう。