ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

権力に踊らされる男『政府はもう嘘をつけない』を読む。

私だってもう30過ぎのいい大人だ。新聞やテレビが伝えているものが、偏ってたり、情報が制限されてたりすることくらいわかっているつもりだ。メディアというのは私たちにかわって情報を選択して要約してわかりやすく伝えるのが役割だから。ただ、どの情報をどれくらい伝えるかという裁量権を誰が持っているのかはわからない。誰に私たちはコントロールされているのだろうか。そう思いながら、人気アイドルグループの解散報道や芸能人の不倫スキャンダルをヤフーニュースでチェックする毎日だ。

 

自分の生活に関わる情報をもっと知りたい。それはいつも思っているが、自分から情報は取りに行かない。内閣府や各省庁のホームページなんぞ訪れたことがない。新聞も取ってはいるものの、毎日読んでいるわけでもない。情報源は朝のニュースと、ヤフーニュースだ。さすがに自堕落すぎると思っても、「きっと権力者によるプロパガンダに違いない。我々一般人の脳内環境を壊して、社会を意のままに動かそうとしているのだ。」などと言い訳をするのだ。

 

さて、『政府はもう嘘をつけない』は、国際ジャーナリスト・堤未果さんの著書だが、アメリカの貧困に関する彼女の本を読んだことがある。ジャーナリストの凄いところはインタビュー力だと思っている。データや文献はもちろん大事だが、当事者の話というのはやっぱり説得力がある。彼女の著書にはいつもインタビューの質と量に驚かされる。ジャーナリズムが根底にあるわけだから、当然、正義感の強い文体だ。正義感の欠片もない私にとっては、読んでいてむずがゆいのも確かだ。

 

ノート1:株式会社国家アメリカ

アメリカ政治の実権を握っているのは1%の富裕層だ。金持ちが政治家に政治資金として投資して、そのリターンとして彼らの望む政策を政府に出してもらう。あるいは、投資家や大企業から人材を政府に派遣して重役ポストに就かせる。もはやアメリカの政治はビジネスになっている。政治さえもマーケットになるくらいにアメリカは株式会社が強い。そして、それを国民はよく知っている。だから、草の根で資金を調達するバーニー・サンダースや、自分の資産だけで選挙運動ができるドナルド・トランプが人気を博すのだ。

 

ノート2:頻発する非常事態宣言は国家権力の強大化のサイン

先進国、発展途上国を問わず、政府が非常事態宣言を出すケースが増えてきている。これは権力の集中につながる悪い流れだ。そういう時は、法を作る人間が一番強くなる。本来ならば立法府は政治家が担うため、悪いことをしたら次の選挙で落選する可能性が高い。しかし、日本は本来、行政府に属する官僚が立法も行っている。官僚は選挙で選ばれていない。それゆえ日本の官僚はものすごい権力を持つことになる。日本でも政府が「緊急事態条項」を導入したがっている。この兆候は少し危険である。官僚の良識回復と政治家の立法能力の向上が急務である。

 

ノート3:国家以外の権力

政府の権力と対をなして、力をもつのが市場経済を牛耳る多国籍企業だ。貿易など国家間での取引で、会社に損失が出た場合、国に対してだって訴訟を起こせる。訴訟を起こせば、ハゲタカ弁護士によるISDS裁判を戦い、勝てば国から賠償金をせびることができる。そうなると、国家はすぐに破綻する危険性がある。また、広告代理店は企業と政府両方に仕えるポジションにいて、プロパガンダで国民・消費者をコントロールしていく。インターネットの普及で膨大な情報にアクセスできるが、アルゴリズムによって個人は情報を探しているようで、さりげなく企業から特定の情報を与えられているのだ。

 

ノート4:真実を見抜く方法

そうした権力に個人が対抗するには、真実を見抜く力が必要だ。流された情報を鵜呑みにすると結局誰が得をして、誰が損をしているのかがわからなくなる。著書は、真実を見抜く3つを提案している。第一に、お金の流れをチェックする。第二に、情報に違和感を感じたら別の情報をあたる。最後に、直観を鈍らせないためにデジタル断食をする。

 

 

「日本人はシンプルアンサーが大好きだ」と言ったのは、このブログでも紹介したデービッド・アトキンソン氏だが、全くもって考えたり、じっくり調べたりすることが苦手な国民なのだろうか。

 

feuillant.hatenablog.com

 

私自身が陥っている病は次の通りだ。情報収集が受け身で、流れてきたものだけを吸収してしまう。ネットだと特に「読む」作業が億劫で、ライブドアニュースのように3行くらいにまとまった文章が好きだ。とにかく結論だけ欲しい。結論以外は読まない。これで読書をしなかったらと思うと恐ろしい。

 

情報収集が受け身なのは、だらだらテレビを見たり、暇さえあればLINEとかやったりしているからだろう。著者が言うように情報を遮断する必要がある。オフラインの時間が増えれば自ずと生活のこと、社会のことを考えるだろう。そうすると、知りたい情報が何なのかがわかってくるはずだ。そしたら、知りたいことをピンポイントで見つけに行く。よけいな雑音に惑わされないかもしれない。

 

そして「読まない病」についても対策を講じなければならない。ビジネスでは特に、短く簡潔に伝えることを良しとする風潮がある。それに慣れてしまうと箇条書きとか図による説明だけを求めてしまう。これも誰かの謀略なのか。このままでは、日本語をまともに読めなくなってしまうのではないか。池上彰の番組のような、本来なら子どもに教える内容が視聴率を稼ぐのだから、すでにその効果が出はじめている。と言うわけで、自分も文章を書くときになるべく箇条書きをやめて、ちゃんとした文章を書くことにしよう。そして読み物もそうだ。やはり文章を読む作業は知性を磨くには必要不可欠。結論だけでなく、その過程こそが書き手の思考がよくわかるのだと思う。

 

といいながら、ヤフーニュースを開いて、「なんだ、今度は歌舞伎役者か!」と不倫スキャンダルを奥さんと二人で笑っている。習慣とは恐ろしいものだ。