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ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

新しい大統領の誕生『アメリカ政治の壁』を読む。

国際情勢 政治

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8年前、アメリカ留学中の私はオレゴン州ポートランドでたまたま、オバマ上院議員(当時)の演説を聴いた。民主党予備選挙の真っ最中で、ヒラリー候補と接戦を繰り広げていた。そのときのオバマの勢いは凄まじいものがあり、ポートランド市は大混雑だった。これはチャンスとばかりに、支持者から「Next President of the U.S」というTシャツを買って川沿いの演説会場まで足を運んだ。

 

「ついにアフリカ系出身の大統領が誕生したのか。」本戦まで勝ち抜き、見事にNext President of the U.Sになった時には、毎年代わっていく自分の国の首相が選ばれる時の何倍も興奮したものだ。

 

あれから8年である。あの若々しく自信に満ちあふれた若干47歳のアフリカ系出身の大統領の姿はもうなかった。白髪が増え、しわが増え、一気に老けていった。病気なのではと疑いたくなるような変わり様だ。

 

超大国の政治を仕切るのはどれほど大変なことか。最近では有能な人ほど大統領になりたがらないといわれている。「CHANGE」と崇高な理想を掲げても何も変わらないことを知っているからだ。おそらく、今回の大統領選でも勝者がどちらになろうと、アメリカを、そして世界を変える指導者にはなり得まい。日本メディアも新大統領への期待と不安を報道するなか『アメリカ政治の壁』は冷ややかにアメリカ政治の構造的な問題を指摘している。

 

ノート1:大統領には政策を実現できる権力はない

・アメリカは三権分立が明確に区別されていて、日本の内閣のように行政から法案を出すことができない。それゆえ、大統領は政党に法案を出してもらうように交渉しなければならない。

・合衆国はあくまで州が国である。各国の代表が集まるような議会では政党が同じといえども、各州の利害調整が難しい。

・アメリカ政治の最大の特徴であり最大の壁は、合理的な政策とわかっていても、文化的理念的な壁に跳ね返されることである。

 

ノート2:砂田一郎氏の主張「利益の民主政」と「理念の民主政」

・「利益の民主政」:ある集団の利益、もしくは国益に適った政策を行う政治。

・「理念の民主政」:利益よりも守らねばならない価値観に焦点をあてて行う政治。

アメリカの政治はこの2つのせめぎあいの歴史である。

 

ノート3:「利益の民主政」と「理念の民主政」事例

オバマケア(国民皆保険制度に近いもの)

・利益の民主政:社会保障を整備することで全員が安心して生活ができる。社会が安定することで経済への好循環も生まれる。

・理念の民主政:『国家は必要以上に個人に干渉すべきではない』という伝統に反する。小さな政府論を支持する。

 

TPP自由貿易

・利益の民主政:国の産業と労働者を守ることが第一であるために反対する。

・理念の民主政:自由競争こそが平等であり、社会を幸せにする。それは他国も利益を享受できるというアメリカ資本主義の使命を果たすため賛成する。

 

イラク戦争

・利益の民主政:イラクの崩壊はイランのイスラム革命の拡大を許し、親米イスラエルにとって脅威になるので戦争すべきではない。

・理念の民主政:大量破壊兵器は人道的な立場から放ってはおけない。世界に民主主義の世界を広めていく使命があるので、リスクをとっても戦争すべきだ。

 

・砂田氏は、傾向として共和党=「理念の民主政」、民主党=「利益の民主政」としているが、著者によれば共和党、民主党どちらにも利益重視派、理念重視派がいる。また、課題によって使い分ける議員もいる。

・例えば、民主党カトリック教団体は、オバマケアに関しては低所得者の利益を考えて賛成の立場だが、人工中絶の是非に関しては民主党の支持する中絶の権利を、キリスト教の教義の立場から反対する。

 

ノート3:利益と理念のパラドックスが起こる背景

■州=国家という考え方

・アメリカは広大で州によって人口動態も文化も気候も違う。憲法から法律、税までバラバラである。それを議会で反映させるのは困難である。

・例えば、CO2排出量の削減をめぐっても、民主党内で意見が割れる。環境保護という人道的な立場から、企業の利益を削ってでも実施すべきと党内で意見をまとめようとしても、炭鉱労働者が多い州では州の利益を損なうためその出身議員は反対に回る。

 

■強いキリスト教

・アメリカはヨーロッパに比べても政教分離が弱い。大統領の条件として、人種や女性よりも宗教を気にする。クリスチャンであることが暗黙のルールになっている。

キリスト教徒は、人道的でリベラルな側面を持ち、貧困問題や環境問題などに関心を持つ一方で、厳しい宗教規律があり伝統的な価値観を壊されるのを恐れる保守的な面も持つ。

 

■多様な人種の多様な価値観

人種のるつぼアメリカでは、利害や価値観が一致するわけがない。だから敢えて、決めないというのも政治手法といえる。例えば、毎回議題にでる銃規制、同性婚、人工中絶など国が決めないことで、未解決のままにしておくことが、最大の政治的効果なのだ。

 

ノート4:大統領に期待していること

以上のことから、大統領には政策を作って行う権力はない。むしろ大統領はアメリカ人の代表という文化的な側面の方が強い。その時代のアメリカの象徴としてのリーダーといえる。だからこそ、およそ2年もかけて国民が参加して、候補者を選び、色々な要求を突きつけながら大統領を作っていくのだ。

  

 

リーダーを決めるのに2年かけるのは異常だし、どの国の選挙でもあんなには盛り上がらない。半分はお祭りみたいなものなのだろう。全員が全員、課題の政治的な解決を期待しているわけではないようだ。ただ、あーだこうだと言いながら自分たちが望むアメリカ人像を作っていく過程だとしたら面白い。2年という歳月をかけて、国民からメディアから色んなことを注文され、時には罵倒され、それでも期待に応えようとしながら、アメリカの方向性を見いだし大統領になっていく。

 

少し馬鹿らしく感じる一方で、うらやましさも感じる。日本では、国民がリーダーを作っている気がしない。気がついたら、選挙には党が公認した有名人なんかがでている。欲しくもない商品を並べられて「どれがいいですか」と言われる気分だ。国のリーダーなんか、いつの間にか我々が選んだ議員が、勝手に決めている。

 

しょうがないのだ。建国のプロセスが違いすぎる。お偉いさんたちが全部作ってくれた国と、革命を起こして自由と平等を勝ち取った国の差か。ないものねだりはこれくらいにして、新しい大統領誕生の瞬間を楽しもうではないか。

 

 

feuillant.hatenablog.com