読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

OECDの統計データはすごい『武器としての人口減社会』を読む。

ビジネス 国際情勢

f:id:feuillant:20161114231722j:plain

アメリカの大統領選挙はトランプの勝利で幕を閉じた。彼の大統領としての資質はともかく、気になったのはメディアの予測が外れたことだ。データに基づいた予測が外れた。世論調査とは逆の結果になった。もうデータによる予測や分析は役に立たないのか。そういったコメントがアメリカのSNSなどでは流れているようだ。

 

実際そんなことない。時間的な推移、他者との比較は、経験や勘よりも正しく推測できるはずだ。大統領選挙の専門家は、過去の大統領選挙の傾向を分析して、トランプ氏の当選をあてているようだ。現政権の支持率、失業率などの変数が、政権交代に大きく関係しているらしい。

 

データによる客観的な分析こそが、正しい解決策を導く。少なくとも勘とか、世の中の流れで物事を判断するよりは確率は上がる。『武器としての人口減社会』は、少子高齢化が日本の難題であり、日本の未来を暗くしている、といった巷であふれる論調をデータでもって反証している。少子化こそが日本にとってのチャンスなのだと主張する。日本は素晴らしい、だからがんばろうぜ、という暑苦しいメッセージではなく、OECD経済協力開発機構)のデータを用いて日本のポテンシャルを明らかにして、社会変革を淡々と訴えているところに好感が持てた。

 

ノート1:少子高齢化を武器にするには

少子高齢化は、他の先進国や中国も近い将来、必ずぶち当たる課題である。一番先に少子高齢化社会を経験できる日本は、その経験とノウハウを武器に高齢化社会の成功事例を作れる。

 

労働人口が減るなかで、どうやって経済成長をしていけばよいのか。GDPは人口×一人あたりのGDPである。GDPを上げるには、人口を増やすか、生産性を上げるしかない。日本の場合、移民を増やさない限り、労働力不足を生産性の向上で補うしかない。日本にはそれをできるポテンシャルがあるとOECDのデータは教えてくれる。

 

第一に、情報通信技術(ICT)と人工知能(AI)が仕事をオートメーション化する。数年で消える職業がイギリスで発表されたが、日本のように失業率が低く、労働人口が少ない国では、AIができることはAIに任せて、人間にしかできない仕事に労働人口を集約することで生産性は向上する。ヨーロッパのように失業率が10%もあって、かつ安価な移民が多い国では脅威になるAIも、日本ではアドバンテージだ。

 

第二に、世界各国の成人力調査では、日本人はリテラシーが高く、とくに中高年齢層のスキルの高さ(読解力と数学的思考力)はOECD加盟国内でも圧倒的だ。それゆえ、新しい分野への労働移動も比較的スムーズに行くと予想される。OJTや公的な職業訓練をしっかり受けることで、新たなスキルを吸収する力がある。

 

第三に、女性の活躍にはまだまだ伸びしろがある。OECDの中で日本は、女性の労働参加率が低い。成人力調査の読解力と数学的思考力において、女性は加盟国中トップである。それにもかかわらず、女性管理職の割合は断トツで低い。そして男女の賃金格差も大きい。こうした部分を少なくともOECDの平均まで持っていくだけで、女性の労働力はより日本の力になり得る。

 

ノート2:日本が抱える課題

高いポテンシャルを持つ日本が、それを活かすためには二つの課題をクリアしなければならない。

 

一つは、労働市場流動性だ。日本はその企業文化からリストラをできるだけ行わない。終身雇用、年功序列を重んじてきた。その結果、あまり結果を出せずにもがいている労働者にも我慢して、適当なポジションに雇用して面倒を見てきた。しかし、能力ある人材を適材適所に配置するためには、別の会社で活躍させるという選択肢もあるべきである。セカンドチャンスがある仕組みを作るべき、その会社で上手くいかなかった人が別の会社で別の分野で活躍する芽を摘んでしまうのは日本全体の損失になる。

 

もう一つは、女性が活躍できる制度の改革だ。安倍政権ではウーマノミクスを掲げて女性の管理職の割合を増やそうとしているが、まずは子育てを社会全体でサポートする仕組みが欲しいところである。子育てにかかる費用への支援、保育施設の拡充などは急務である。企業側も企業制度を見直して育休や、復職などの条件を改善していく必要がある。

 

この二つは、いわば働き方革命である。セカンドチャンスをキャリアアップととらえ前向きに転職や復職ができる環境が整えば、生産性は上がるだろう。

 

感想

外資投資銀行のマネージャーを経て、OECDの東京センター長とは、著者の華々しいキャリアを見ると、キャリアウーマンだからこそ言える提言とも、とれないくもない。じっさい、そこまで意識高い系はそんなにいないのだから。しかしOECDとはこんなに面白いデータを取っているのか。今更ながら自分の国際感覚のなさを痛感した。

 

働き方はもっと自由でそして流動的であるべきだというのは賛成だ。企業には悪いが、労働者はどんどん企業で自分を磨き、ステップアップで違う会社に行くべきだろう。

 

自分が会社でうまく成果が出せないことは、「使えない」のではない。実際、自分の能力を活かせるポジションではなかったり、分野ではなかったりもする。多くの人は、次のポジションまで我慢して、結果よりも一生懸命働いていることをアピールする。クビにならないように、有給を取らず時にはサービス残業して存在感を示す。その結果、過労死といった取り返しのつかない事態にまで発展してしまうのではなかろうか。

 

「向いていないな」「ここでは自分の力を試せないとな」と思ったら思い切ってやめてみる。そして新天地でまたがんばる。そこで花開いたら、それこそ社会全体にとってのメリットだ。こうした心構えを労働者が持つには、企業側の姿勢が問題になってくる。著者も言うように、余った人材をもう一度市場に出し、適材適所に配分するのは社会貢献なのだ。経営者たるもの自分の企業ばかりではなく、社会全体を見る広い視野が欲しいものである。