読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

キューバの英雄を偲んで 『マルクスの逆襲』を読む。

思想 政治 歴史

f:id:feuillant:20161201230943j:plain

大学生の時、『モーターサイクル・ダイヤリー』という映画を観に行った。キューバ革命フィデル・カストロと共にゲリラとして親米政権と戦ったチェ・ゲバラの半生を描いた作品だ。何でもすぐに影響を受けやすい私は、すぐにゲバラのTシャツやトレードマークのベレー帽を買った。これで私もゲバリストだ、などと勝ち誇った顔してキャンパスを闊歩したものだ。平和な日本にいるからか、革命の二文字に心が躍った。

 

先月、カストロ国家評議会議長が死去した。90歳の大往生だ。日本のみならず世界のトップニュースで取り上げられているのを見て、カリスマ革命家の人気ぶりを改めて思い知った。社会主義が失敗したことは、ソ連や東欧などの共産党国家の解体からも明らかだ。「だいたい、全員が平等になる社会なんておかしい。」資本主義社会で何不自由なく生きている私の浅はかな知恵はそう言っている。

 

現代語でいえばオワコンである社会主義革命の戦士が、これほどまでに国から支持を受け、政界から引退したにもかかわらず、その死が世界に衝撃をもって伝えられることに興味をもった。社会主義国家の根底にあるマルクス主義はいまだに人を魅了しつづけるイデオロギーなのか。

 

大学時代、マルクスの『資本論』を読もうと思って図書館で借りてみた。しかし3冊もある上、内容が全く頭に入らなかった。結局、10ページで挫折した苦い経験を持つ本だ。やはり凡人には理解できない思想なのか。作家の三田誠広氏の『マルクスの逆襲』は、安保闘争時代にマルクス主義に走る若者を間近に見てきた彼自身の体験をベースに、マルクス主義について簡潔に説明してくれている。知識なしでも読めそうだと思った。

 

ノート1:人々がマルクス主義に魅了される理由

理想的な社会を実現するために、自分の命を賭けて悪と戦うこと。この考えに格好良さ、憧れを抱く人は多い。マルクス主義のキーワードは『疎外』だ。疎外とは、低賃金で与えられた仕事をこなすだけで、人間として働く喜びや充実感が失われている状態を指す。マルクスは19世紀の経済学者で、労働が商品として市場で取引されるものであると見抜いた。労働の自由によって人気の産業に労働者は集まる。労働が供給過多になってしまい、労働の価値は下がり賃金は上がらない。結果資本家は儲かり、労働者は貧困に苦しむことになる。

 

マルクス主義の本質は、賃金の平等よりも「誰もが、疎外のない充実した生活を送れる」人生を達成することだと言える。それは人々にとって生きる希望であり、目的になりうる。希望のために命をかけて戦うのである。

 

ノート2:社会主義の暴力性

完全な社会主義体制で理想の社会を作るには時間がかかる。国家主導でインフラを整備して産業を育成していくには、賃金の制限、自由の制限を国民に課さなければならない。しかし国民は禁欲には耐えられない。そして、すぐに結果が出ないと不満を持つ。

 

その不満が国内で広まらないために、政府は対策を練る。①革命の理念を広めるために世界に向け発信する。②資本主義の仮想敵国を作り、国内の不満の原因を外に向けさせる。③不満を持つ者を反逆者として粛正する。こうした事を成功させるにはカリスマ的な英雄の存在が必要だ。暴力や禁欲が正当化される状態はファシズムに似ている。

 

ノート3:日本のマルクス主義

ロシア革命社会主義国家として出発したソ連は、社会主義革命を世界に広げるためにコミンテルンという国際組織を作った。日本の共産党はその指導のもとで1922年に設置された。しかし当時の日本では政治活動に制限があったため、地下組織として活動していた。ソ連の影響を恐れた日本政府は、治安維持法などで取り締まりを強化した。非合法の組織ゆえに上意下達式の強固な組織体系が作られていった。

 

戦後共産党は合法化された。そして民主主義制度のもとで政権を取るという目標を掲げた。そこで地下組織で過激思想を持つグループが分裂し、安保闘争学生運動に発展していく。民衆の中から自然発生的に次々とセクトが生まれていく。その最も過激なセクト連合赤軍であった。よど号ハイジャック事件浅間山荘事件など犯罪に手を染めるまでに至った。結局、ソ連が崩壊したり、犯罪集団として悪いイメージがついたりしたこともあり、社会主義運動は徐々に落ち着いていった。

 

ノート4:日本こそがマルクス主義の成功例?

共産党の過激派とは別に、戦後の日本は少なくとも高度経済成長期までは社会主義的な制度体系がうまく働いていた。そういう意味では世界でもっとも社会主義制度が機能した国とも言える。

 

その理由は①戦前のファシズム期から継承された強固な官僚組織②国家主導の産業振興策③財閥解体による資本家の消滅④ガチガチの規制だ。そして、年功序列、終身雇用の企業形態で、労働者は平等な賃金を得ていた。

 

しかし、他の社会主義国と同様に行き詰まり始めると、規制緩和をキーワードに外国資本の誘致、市場開放などを加速させた。労働市場にも風穴があき、契約社員、アルバイトなどの割合が増えていった。不平等感が広まっていくと、再びマルクス主義が唱えた「疎外のない充実した生活」を達成するための運動の機運が高まるのではないか。

 

感想

著者も、マルクス主義が失敗だったかどうかははっきりさせていない。なぜなら、「疎外のない充実した生活」は目指すべきだと思っているからだろう。誰もが幸せに働ける社会は理想的だ。それは賃金の高い低いではない。やりがいを持って、人の役に立っていると感じられて、連帯感のある働き方だ。社会主義=全員平等というイメージが強いので、少し誤解していたかもしれない。革命家カストロが目指したのも当然そうであったに違いない。

 

イデオロギーの対立では資本主義が勝ったと言われている。しかし、当然資本主義も完璧ではない。今日の行き過ぎた資本主義は、世界の人々からNoを突きつけられている。イギリスがEUを脱し、アメリカではトランプが勝った。揺り戻しが来ている。

 

言論の自由を抑圧し、反対者を虐殺し、知識を捨てさせ、原始的な生活を強いった悪名高い世界の共産党独裁者のイメージがついていてもなお、マルクス主義がちょこちょこ顔を出すのは、やはりどこかに希望を持っていて、今度こそはと、次代のリーダーを人々が望んでいるようにも感じる。

 

私は中途半端な人間なので何事も中庸がいい。ある程度の自由とある程度の平等。「これでいいのだ」と思えるレベルが心地よい。だから妙に突っ走る人間を見ると、見下すか尊敬するかどちらかだ。キューバ革命の英雄はやっぱり格好良い。