ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

厄介者の正体『ウイルスは生きている』を読む。

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胃腸風邪をひいてしまった。毎年冬には必ずと言っていいほど風邪をひく。自分の軟弱な体が恨めしい。まさか今回はお腹に来るとは。それでも風邪だったことはありがたい。今年はノロウイルスが流行しており、まさか自分もと思いながら病院に足を運んだ。ノロウイルスの特徴は高熱だと医者は教えてくれた。しかしながら、お腹の痛さは半端ではない。トイレとベッドの往復だった。

 

そういえば、鳥インフルエンザも猛威を振るっているそうだ。養鶏場での感染が確認されれば、すべての鶏が殺処分される。今年は酉年だ。さっそく縁起が悪い。トイレの中で、ウイルスという厄介な存在を恨みながら手にとった本書は、この厄介な存在が実は我々人間の進化に大きな影響を及ぼすことを私に教えてくれたのである。

 

 

ノート1:ウイルスの矛盾

人類は常にウイルスとの戦いでもあった。例えば20世紀初頭に流行したスペイン風邪(インフルエンザ)による死者数は、第一次世界大戦の死者を超える。またHIVによる感染拡大や最近ではSARSエボラ出血熱など猛威をふるった。ウイルスが人類の存続にとって危険な存在であることは間違いない。

 

しかし一方で、ウイルス自体は自らエネルギーを放出して生きることができない存在であり、生きている宿主に感染しその細胞で潜伏することで命をつないでいる。非科学的な言い方をすれば、宿主を殺してしまっては自分たちが生きていくことができないウイルスは、徐々に体内でのコミュニティに慣れていく。流行が一定で収まっていくのにはこの原理が考えられる。ウイルスへの抗体がつくとは、ウイルスが細胞内でうまくやっていけることなのだ。

 

ノート2:ウイルスは生物なのか

ウイルスの分類にはたくさんの説がある。生物よりも分子に近いとする意見と、完全に生物に分類できるとする意見だ。明確な定義は難しい。生物と非生物の境界線は非常に曖昧であるからだ。細胞自身がエネルギー活動を行わず、細胞が別の生物の中でしか生きることができない物体を生物と呼べるのだろうか。

 

自己完結できないという点においては人間も同じである。高度な遺伝子情報を含んでいる人間だが、生命に欠かせない必須アミノ酸を自分で生成できない。外部からの摂取に頼っている。外部環境に依存するのは生物でもありうるのである。完全に生物とは言えないまでも、生物になれる存在としてウイルスをとらえることができるのである。

 

ノート3:人類とウイルスの相互依存

最近の研究で、人間の子宮機能が果たす“胎児を外敵から守る役割”にウイルスの存在があることが明らかになった。胎盤が赤ちゃんに栄養を送り込んだり、免疫を働かせて赤ちゃんを守ったりするその機能はウイルスがもたらしたというのだ。その機能がなければ赤ちゃんはお腹の中で成長し産まれることができない。つまり、ウイルスにより人類は人類として進化したと言っても言い過ぎではない。

 

生物の進化においてウイルスは決定的な役割を果たしてきた。ウイルスはそれ自体では生きていくことができない。宿主に感染しその宿主の細胞の中で生活をする。その細胞を部屋にたとえれば、人の部屋にある色んなモノを壊したり、散らかしたり、自分のおもちゃを持ち込んだりすることで、宿主の細胞は時に破壊され、時にウイルスのもつ独自の機能が働く。ウイルスが宿主の細胞に持ち込んだモノが、定住した結果、宿主に新しい能力が生まれるという仕組みである。

 

生物とウイルスは進化の歴史において切っても切れない縁があるようだ。数年ではなく億年単位で見れば、今猛威を振るっているウイルスが、人間の体に慣れて新しい機能を授けてくれたとき、人間はまた進化するのだ。長い生物の歴史から見ると、ウイルスは単なる厄介者ではなく共に進化するパートナーと言えるだろう。

 

読み終えたとき2016年も終わっていた。私の生きている時間は長くても100年。生命誕生の歴史を考えれば1ナノにも満たない。なんと儚いことだろうか。新しい年を迎えるにあたって生命の不思議に触れられたことは幸運だ。

 

数十億年の1年とみるか、人生80年の1年とみるか。長い歴史の中の1年と考えれば、1月1日もただの一日。焦らずゆっくり進歩していこうと思う。人生の1年と考えれば、この1年もやれることはすべてやらなければと気合いが入る。辛いことがあったら、前者を考えることにしよう。人類はウイルスと戦いながら共に生き、進化してきたのだ。それに比べれば自分の悩みなど一瞬の出来事だ。

 

胃腸風邪による最悪の年末だったが、かえってウイルスに励まされた気がする。