ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

サザエさんが泣いている『企業不祥事はなぜ起きるのか』を読む。

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小学校での成績は抜群によかった。ほとんどいつも満点だ。勉強しなくてもできることが自慢だった。学校から帰ると夕飯前までがっつり友達と遊んで、風呂に入って寝るだけだった。友達も同じように家に帰れば疲れて勉強なんてできない状況だったから、なおさら私と友達の学力の差がついた。

 

ある時、理科で80点を取ってしまったことがあった。80点でも平均点よりは上だ。普通の子どもならば喜ぶであろう。しかし、自分がなまじっか頭いいと思っているうぬぼれ屋だから、80点はショックだった。そして、親にバレるのが怖くなり、いつもならテストを自信満々に見せるのに、ひっそりと机の中に隠してしまった。まるでテストがなかったかのように。

 

隠蔽やごまかしとはこうした事が癖になって身につくのだろうか。東芝がなかなか決算の承認が得られず、再び発表を延期するようだ。延期回避の苦肉の策として監査なしで決算発表するとの報道も出ている。とんでもない負債を抱えることになり自暴自棄になっているのか。もはや何でもありだ。

 

日本メーカーを代表するブランドが、粉飾決算を隠し続けた挙げ句、もうどうせ上場廃止だからという諦めで「監査なしでよくない?」と開き直ったのにはがっかりだ。気のせいか、今使っている東芝の掃除機の吸引がすこぶる悪い。

 

企業の不祥事の原因は、トップの、人間としての弱さにあると思っている。人間には嘘をついたり、ごまかしたりする性質があって、弱い人間はそれを自制できない。トップになる人間ほど、誠実でなければならない。本書は、企業トップの人間性よりも、ソーシャル・キャピタルという視点から企業の不祥事を説明している。企業のトップを含んだ役員の組織体系が不祥事に結びつく要因になりうるという結論である。

 

ノート1:不祥事とソーシャル・キャピタル

企業の不祥事は、企業内社会関係資本ソーシャル・キャピタル)と関係がある。ここでの企業の不祥事とは”会社の役職員による不正行為または法令もしくは定款に違反する重大な事実、その他公共の利害ないしは社会の規範に反する行為で、社会に対する社会の信頼性を損なわせるような不名誉で好ましくない事象”と定義される。(p.42)

 

一方、ソーシャル・キャピタルとは社会を構成するネットワーク・信頼関係(強い絆で結ばれる強い関係性・積極的に外部との交流を図る開かれた関係性など)のことで企業に限れば、取締役会、企業の部門間の関係性、トップと部下の関係性を指している。企業の最終的な責任は経営者にあるとはいえ、不祥事が起こるたびに巻き起こる企業風土は、企業内社会関係資本と深く関係している。

 

ノート2:企業不祥事の背景

社会関係資本の点から二つの大きな要因が、不祥事につながるようだ。一つはサイロ・エフェクトであり、もう一つがグループ・シンクだ。

 

サイロ・エフェクトとは、専門性が高まり細分化され、その細分化された世界に身を置きすぎると、それ以外の知識が見えなくなる現象である。いわゆる「たこつぼ化」。会社で言うならば、複数の部門が自部門の利益のみを考え、会社全体がどうなっているかがわからなくなる。不祥事の企業においては、特定の部門からの社長経験者が多く、その部門以外についての状況把握ができていない。

 

グループ・シンクは、凝集的(一箇所にこり固まる)な内集団に深く関与し、全員一致を求めるあまりに、現実的な評価を行う動機を失うときに思考停止に陥ること。企業でいえば、周りを自分の懇意にしている人で固める。監査に高校からの友人を雇う。役員に自分の部下を引っ張り上げるなどで、身内をグループの強化に使う。グループの同質性が高まり、別の考え・仮説を検証されることなしに、身内のリーダーが決めたことに暗黙に従ってしまうのだ。

 

妙な仲間意識によって作られるネットワークの強化は、排外的になりかつモラルの低下を招きやすい。 

 

ノート3:企業風土はトップが作る。

企業風土は、企業内で時間をかけて選抜された幹部職員集団が企業経営を牛耳るネットワーク状態といえる。トップが、外部の取締役、監査役などの外部のネットワークを遮断し、誰もトップに口出しできない状況を作ることができる。また、トップを退いた後も相談役・顧問といった院政を敷くことで、本来の企業の統治ネットワークから外れた存在が指揮系統を混乱させるケースもある。トップだけでなく、役員もトップのとりまきとして暗躍したり、強い仲間意識から見て見ぬふりをする慣習が生まれたりする。

 

何度も会社法は改正されているにもかかわらず、外部からの監視(社外取締役の設置や外部監査)については多くの企業が異議を唱えている。生え抜きが企業を仕切るのが当然という考え方が根付いているからだ。

 

ノート4:社会資本との相関関係

東証一部上場企業のデータから、特に社長・役員の在任年数・年齢・生え抜き度などを変数にして、企業のパフォーマンスを説明する試みを行った。得られた結果で明らかになったのは、社長の在任月数が長いほど利益率が高い、社長が他の役員に比べて年上になるほど利益率が落ちる、社外取締役が多いほど利益率が高いことである。そして、凝集性を含んだ社会関係資本(役員全体の生え抜き度・勤務年数)は、利益率と負の相関関係が認められた。

 

もちろん、社会関係資本だけが不祥事を起こす要因とは考えにくい。しかし、つながりが強く、かつ外部にも開かれた組織は概して不祥事は少なく、つながりが強く、外部に対して閉じた組織は不祥事を起こしやすいと言えそうだ。

 

 

トップの座に長く居座ると腐敗になる。同質性(生え抜き組、同じ部門出身など)が高ければ高いほど閉鎖的なネットワークになる。愛社精神が強ければ、悪事に対しても見ざる聞かざる言わざるを貫く。なんとなく当たり前のような話だ。そう考えると、社長が70代くらいで10年以上も在任していたら、不祥事が起こりそうと思って良いのだろうか。

 

私は、人間はズルくて弱いものだと思っているから、よく雑誌とか本に取り上げられる、いわゆるスゴ腕の経営者だって、本当は悪いことしているんじゃないの、と疑ってしまう。たまたま運よくバレなかっただけじゃないのか。雑誌のインタビューとかで、ろくろを回しているような手つきのお偉いさんを見ると、「そんなことしている場合か」と思ってしまう。どうもひねくれていてよろしくない。

 

しかし、人間は弱い生き物だからこそ、やっぱり誰かの支えや激励が必要だ。組織で弱いもの同士が傷をなめ合うと、不祥事につながるのだろう。筆者も最後に、職場のあり方に言及している。従業員の働き方、報酬、同僚との良い信頼関係、やりがいなど、人間の弱さを補い合うネットワークの方が、経営戦略やリーダーシップよりも大事なのだ。

 

失敗してもよろしい。間違ってもよろしい。別に死ぬわけではない。私と違って、カツオは勉強ができない。それでもテストの点数を見せて、堂々と波平に怒られているではないか。言い訳も隠蔽も聞きたくない。経営者たるものカツオなみの潔さが欲しいところだ。