もはや移民はタブーじゃない 『限界国家』を読む。
知り合いの同僚にベトナム人がいる。彼女のマンションのポストに、気持ち悪い投函があったそうだ。「夜の騒音がうるさい。日本社会のルールを守れ」との主旨である。クレームかと思ったが匿名だった。隣人だと思うが確証はない。無視しようと思ったが、次の日インターホンがなった。ところが誰もいない。怖くなって知り合いに相談したのだった。
知り合いは管理人に掛け合ってみたが、良い解決案は提示されなかった。挙句には、部屋を移動したらと提案されたらしい。「なぜ、困っているこっちがコストを払わなければならないのか」まさに火に油を注ぐ発言である。
エアコンがない部屋に住んでいるため、窓を開けて生活をしている。それゆえに、話し声などが聞こえてしまったのだろう。しかし、どうだ。文章でクレームを書き、名も名乗らず日本のルールを守れという。日本のルールでは、クレームは文章で、しかも匿名で渡すのか。
何か外国人に迷惑を被られると、決まって「日本社会のルールを守れ」、「だから外国人はダメなんだ」という輩がいるが、こいつはまさに典型だ。社会で生きていく以上、迷惑がかかって当たり前。だから話し合ったり、助け合ったりするのだ。話し合いもまともにできないとは文化以前の問題である。うるさいならうるさいで、それを本人に伝えればよいだけの話だ。結局、ベトナム人の彼女と知り合いは警察にも相談し、マンション周辺の巡回を強化してもらった。
日本で働く外国人は、約108万人(2016年10月時点)。人口減少で苦境にあえぐ日本経済の救世主として外国人労働者は今後も増えていくだろう。しかし、私の無知のせいなのか、日本政府の移民政策についてよく知らない。移民に関しては慎重な意見がある、とだけは耳にする。
本書は、移民受け入れこそが日本の未来を救う最終手段であると主張する。結局、人口が減ることがわかっていたのにほったらかしにしてきたツケが回ってきた。移民を受け入れて新しい日本人像を作る時期に来たのだ。
ノート1:日本の人口減少の深刻さ
海外の人口学の専門家によれば、日本の出生率の低下は深刻で、現代の国家では出生率を2.1(人口維持できる出生率)まで持ち直した国は皆無である。この問題は何年も前からわかっていたのに政府が放置してきたためもはや回復不可能だ。移民を受け入れて人口を維持していくしかない。
日本はこれから人口大激減の時代に突入する。
- 2020年代 620万人
- 2030年代 820万人
- 2040年代 900万人
- 2050年代 910万人
日本は10年単位でこれだけの人口減少を経験する。まさに1国の人口がなくなるレベルである。30年代までには80歳以上の人口は1571万人を超える。介護不足や年金給付の負担増が迫っている。町は廃墟化し、公共機関も滞る。伝統文化も消滅する。人手不足による倒産も増えていく。政府は、海外から観光客を呼び込む戦略を掲げているが、人手不足で受け入れ態勢が整わず満席になるまえに宿泊を拒否するホテルも増えてきている。
ノート2:移民受け入れのメリット
野村證券の研究所によるシミュレーションによれば、外国人労働者の受入れはGDPの増加にプラスに作用する。移民が120万人の場合GDPは1.6%アップ(8兆円)。300万人になると3.8%(20兆円)アップする。特に医療、金融、卸小売、建設の分野では大幅な効果が期待できる。
また、移民は経済の活性化だけでなく、地域の活力、文化の担い手としても役割が期待されている。
移民受け入れに反対する人たちは以下の理由を挙げているが、どれも説得力にかける。
外国人犯罪が増える。
外国人の数は年々増えているが、犯罪は減少傾向にある。したがって、犯罪が増えるとは言えない。
日本の労働力を増やせばよい。
女性の就労を増やしても、労働人口の減少を抑えられないのは明白である。そして、介護や農業、深夜の仕事など、やりたがらない仕事は人が増えない。
日本人の職が奪われる。
受入れの前に「労働市場テスト」を実施する。日本人の応募がないところから移民を募集すれば問題ない。
社会保障も増える。
外国人が生活保護を受けている数は多いが、原因は明らかである。ビザだけ与えて、労働、教育、住居など定住に対する十分な支援を行わなかったためだ。支援体制を整えれば、十分に生活できるようになる。
人口減でも豊かな国がある。
確かにヨーロッパの中小国の中では人口が少なくても、生活水準の高い国もある。しかしこうした国も移民の果たした役割は大きい。ヨーロッパは人の移動が自由なため、外国人労働者の流入は当たり前である。さらに言えば、心の豊かさを求めるならば、政治は不要である。
生産性を上げれば十分成長できる。
2015年時点で日本の平均年齢は46歳である。日本の商習慣と高年齢では、生産性を上げるためのイノベーションを起こせるかは疑問である。今までできなかったことが、すぐできるとは思えない。
ノート3:外国の移民政策から学ぶこと
ヨーロッパの移民政策は失敗の連続だった。彼らの政策から学べば、スムーズに移民を受け入れることができる可能性が高い。
【ヨーロッパの移民政策の推移と結果】
- ゲストワーカーとして外国人労働者を受け入れる。ヨーロッパ政府は彼らが定住することを予測していなかったため、定住しても市民権さえ得られず2級市民としての扱いを受けることになる。
- 移民政策:同化政策。移民になるために母国文化を放棄するように強要した結果、ホスト国社会との対立・断絶が深まってしまった。
- 移民政策:多文化政策。一転して、母国文化の容認を行った。その結果、移民のコミュニティを強化してしまうことになり、ますますホスト国社会に溶け込まなくなってしまった。
- 移民政策:インターカルチュラル政策。文化の相互交流と多様性を目指し、政府だけでなくNPOや市民団体もその地域の文化と移民の文化を取り入れた新しいイベントなどを提案し、コミュニケーションの場を増やしている。
学ぶべき教訓としては2つ。1つは、ゲストワーカーだとしても、外国人労働者の定住を想定しなければならない。2つは、彼らの母国文化を認めたうえで、日本社会に溶け込むように積極的にコミュニケーションを図るべきである。
ノート4:移民政策の3本柱
欧州の移民政策からの教訓を活かして、定住がい外国人受け入れの3本柱を提案する。
1.入国割り当て政策
日本としてどこの国から何人、どのような移住者に来てもらうかを決定すべき。一気に増やすのではなく段階的に移民を増やしていくことも重要である。まずは、親日国から25万人程度を目指すのが妥当だろう。やみくもに集めるのではなく、人材基準も設定しておかないと、日本に来ても活躍できず貧困に陥る可能性もある。
2.ソフトランディング政策
まずは公的なサービスを充実させて定住しやすい環境を作ること。日本語の教育だけでなく、就労相談、居住相談など市、NPOなど協力して支援体制を作るべきである。
3.多文化パワー政策
定住後、日本社会になじめるような工夫が必要である。外国人と日本人のウィンウィンの関係を構築するためには、ヨーロッパで成果をあげているインターカルチュラル政策が望ましい。文化交流を活発にし、積極的にコミュニケーションをとる機会を作り、コミュニティでの孤立を防ぐ。
日本は宗教的な無知はあるものの、他国の文化や価値観を受け入れる素地は整っている。海外とうまくやっていけるはずである。制度の設計と、コミュニケーションを官民一体になって進めるべきである。
将来を予測することは不可能だ。いつ株価が下落するか、いつ南海トラフの大地震が起こるかわからない。起きてしまったら起きてしまったで対応する。もしくは、万が一を想定して備える。しかし、人口に関しては将来をはっきり予測できる。出生率が2を切ったら人口が減るのは目に見えている。そして将来どういう人口動態になるかも。予測できる事態にも手が打てないなんて、どれだけ無能で無策なのか。あらためて、自分の国家を恥じざるを得ない。不倫なんか釈明してる場合か。
著者は、移民について反対する意見に対して反証を行っているが、移民について反対する人って今時いるのだろうか。右翼の方々、年金暮らしのおじいちゃん、おばあちゃんだろうか。日本が滅びるって思っている人もいるかもしれないが、どうせそんな人たちは50年後生きてやしないんだから、今後ものすごい負の遺産を引き継ぐ若者のためにも移民は賛成してもらったほうがよい。文句があれば50年後、化けてでもでてきたらよかろう。
もう日本は、人口増加を移民に頼るしかないのは理解できる。しかし、移民政策も手遅れに感じる。こんなよぼよぼの老人国家に積極的に働きに来る人が今後増えるのだろうか。東南アジアも含めて、どんどん国が豊かになっている。
物価だって、生活水準だって日本とそんなに変わらなくなってきた。より魅力的な国なんて世界にたくさんある。移民に来てもらおうっていっても、移民にだって選ぶ権利がある。制度も整っていない。日本語は難しいし、世界的に使えない。独特の文化が理解しづらい(空気を読むとか)。つらい思いをしてまで日本に来る理由がない。それならシンガポールとかアメリカに行くだろう。
この発想だったら、日本人も移民になって別の国に行く方がベターな将来がくるかもしれない。
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