ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

過労死なんてゴメンだ『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』を読む。

電通社員の自殺によって、改めて日本人の働き方が話題にあがっている。私もかつて大手企業で働いた経験があり、朝から晩までがむしゃらに働いていた身なので他人事とは思えなかった。日本の労働問題といえば、ブラック企業とか過労死という言葉に象徴される「働きすぎ」に集約されるだろう。

 

プライベートを削ってでも組織のために、時間の限り働く。働き過ぎると、組織に迷惑がかかるのでサービス残業をする。上からのプレッシャーと、組織内の空気が、帰ることを許さない。みんなが自分を犠牲にして働いている割に、日本の経済はぱっとしない。日本経済の落ち込みの原因は生産性の低さにあると指摘する専門家も多い。日本では10年以上も平均給与が上がらない状態だそうで、20年前の30代の給与よりも今の30代の給与はずっと低いというデータもあるようだ。真偽のほどはともかく、滅私奉公でも報われないなんて悲しすぎる。

 

悲壮感漂う日本社会とは対照的に、効率的に働いて経済を上手く回している国がある。ドイツだ。最近、EU問題などで国際的なプレゼンスを高め、再び台頭してきたヨーロッパの雄。かつて戦後の復興プロセス、ものづくり大国、勤勉な国民性など奇妙な類似性から比較されてきたドイツに、「働く」という点で大きく水をあけられている。ドイツ在住のジャーナリストからこの国について学ばせてもらうことにしよう。

 

ノート1:ドイツの労働事情

・1年に最低24日の有給休暇を労働者に与えることと法律で定められている。しかも、有休の消化率はほぼ100%である。

・1日8時間の労働が法律で定められていて、企業はこの厳守を徹底している。

・1年間のサバティカル休暇(給与をもらわずに1年休む)の取得率も高い。

・育休制度も充実していて、最大3年間の休暇をもらえる。その間は、企業にかわって政府が労働者に給与の67%を支払う。

 

ノート2:効率の良さ

・1年間に30日以上有給休暇を取りながらも、ヨーロッパNo1、世界4位の経済大国である。

・一人あたりのGDPは43108ドル。(日本36069ドル)

・一人あたりの年間労働時間は1393時間。(日本は1745時間で約44日の差がある。)

・一人あたりが1時間労働で生み出すGDPは61.4ドル。(日本40.9ドル。)

失業率も4%:経済学上は完全雇用状態。

財政赤字0を達成し、国の抱える借金が無い状態。(日本1000兆円を超える。)

 

借金しなくても、働き過ぎなくても経済は成長している。ちなみにアベノミクスによる財政出動と、労働者に働かせまくって経済を成長させようとしている日本とは真逆だ。

 

ノート3:ドイツの働き方がうまくいっている理由

【法律】

法令遵守がしっかりしている。厳しい罰則を課したり、労働監査の抜き打ちが定期的に行われたりしている。(ちなみに、日本では自殺者がでたら労働局が監査に入る。)

・労働者一人一人が企業と雇用契約を結ぶ。(正社員でも契約書が必要である。)

・法令が、経営者に労働者への保護を義務づけている。(労働環境を整備するのも経営者の責務。)

労働組合が強い権力を持ち、監査に介入できる権限を持つ。

 

【ドイツ人の性格】

・規律を重んじるので、法令にはしっかり従う。個人主義が強いため、仲間内の暗黙のルールは存在せず、法律が厳格なルールになる。

・企業よりも個人の生き方を重視する。自分の人生設計がしっかりしていて、プライベートと仕事は区別する。

成果主義を重んじ、やみくもに仕事を行うのではなく、得られる効果・利益を考えて行動する。

・リッチはお金だけではなく、時間の余裕がある人という概念。忙しそうにしている人は評価されない。

 

【国家戦略】

シュレーダー政権のアジェンダで、企業の収益を増やすための施策を長期に計画し実行した。

・インダストリー4.0というIoT戦略を経済戦略に添えた。

労働人口の減少に備えて、海外からの労働者を受け入れる移民政策を行った。

・労働者への失業手当、職業斡旋、職業訓練、アルバイトの最低賃金の設定など、徹底して行った。

 

感想

絶好調のドイツと比較してみると、日本の働き方には構造的な問題があるようだ。

・労働に関しての法律の不徹底。(法治国家なのにこと労働に対しては緩い。)

・経営者のへぼさ。仕組みが作れない。(労働者の力量にたよりすぎる。)

・国家戦略のなさ。(問題が起きたら法律つくりましょう。景気が悪いので、とりあえず消費税上げるのをやめましょう。)

 

サロン経営にあたって、誰がやっても同じクオリティのサービスを提供できるお店づくりを提唱してきた。マニュアルを作り込んで仕組みを作ろうとしたのだ。その方が効率が良い。しかし、スタッフの反応はいまいち。なぜかというと、「誰でもできる」=「自分は要らない」と感じるらしい。有給を使って長期休暇を取らないのは、環境のせいもあるかもしれないが、「自分が必要とされない」と思われるのが怖いだけなのかもしれない。自分がいなくても会社が回ることがわかったら、必要ないよってことだから。だから「自分がやらなきゃ誰もできない感」「自分、過酷な環境でがんばってます感」を出す。

 

会社の一従業員から経営者になり、そういう視点で見るようになった。労働環境の劣悪さは確かに日本社会の構造的な問題ではあるが、やっぱり個人個人の労働に対する姿勢が問われているのだ。私もふくめて、自分の人生戦略を持っていない人が多い。「どういう人生を送りたいか」は「どの企業で働きたいか、年収はいくらがいいか」とは質が違う。「安定した生活を」は答えではない。もっと哲学的な質問だ。それがわかれば、自ずと働き方も変わっていく気がする。目標もなく、働くことで自分を認めてもらいたいというだけの中途半端なナルシシズムが自己破壊を招いている気がする。