ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

答えはすでに出ている?『統計学が日本を救う』を読む。

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世の中の問題をあれこれ議論するのはよくあることだ。時には過激な言い回しで極論に走ったり、知識をひけらかし少し俯瞰して物事を見た気になったりする。先日、15年来の友人と飲みながら日本社会について熱く議論を繰り広げてしまった。わかっていることだが、我々ごときが知った風な感じで唱えている解決策なんてとっくの昔に誰かがやっているのだ。そして、それが上手くいかないことがわかっているから誰もやっていない。それなのに、お酒が入ると日本政府のここが悪いだの、税金をどう使うかなど延々と話し続ける。

 

その通り。社会の問題について議論することで、自分がちょっとましな人間と思われたいという一種のナルシシズムなのだ。クイズ番組に出ているインテリ芸能人が、googleで調べればわかることを答えてドヤ顔を決めている。それと同じだ。酔いが覚めて、自分が口にした正義感は思い出すだけでもゾッとする。

 

とはいえ自分の考えを持つことは、時に正解不正解よりも大事である。まだ解決できていないことというのは、どんなインテリ軍団でも解決できていないということなのだから、我々も彼らも同じ。しかし、その考えを元に実行してきた他者の経験がデータとして蓄積されていれば、それを分析してある程度まで方向性を示すことは可能なようである。それが統計学だ。

 

本書は大ヒットした『統計学が最強の学問である』の著者が、統計データをもとに日本の少子高齢化、貧困、経済成長などについて分析をしている。そして、それによって日本のとるべき政策も答えが出ているとさえ主張している。統計学は、どんなロジックや勘よりも高い確率で未来を予測できるようだ。

 

ノート1:社会保障

日本の財政逼迫の原因は社会保障費の増大である。約97兆円の歳入に対して社会保障費は32兆円にも上る。その8割は年金・医療・介護に割り当てられる。膨れあがる社会保障費を抑えるには、根本原因である少子化を食い止めることが最善の策である。労働所得を増やしてそれを社会保障費に回さなければならない。

 

OECD少子化の効果的な対策として4つあげている。その4つの施策のうち①家計が負担する子育てコストゼロ②保育園など公的保育サービスの拡充について、日本政府の支出は先進国最低レベルである。約2兆円ほどを①②に費やすことで、少子化は改善される可能性が高い。

 

ノート2:医療費

医療費の増大は高齢者の割合の増加よりも、さらにハイペースで伸びている。つまり高齢者一人あたりの医療費が増加している。一方で、増加した分の健康改善の効果は少なく、お金をかけたからといって寿命が延びたとは言えないようである。医療にも経済的手法を使ってコストと価値の評価をすることが大切である。コストの割に効果の弱い診療は、患者負担にするほうがお金を無駄にしない(混合診療が向いている)。

 

反対意見として、経済格差なく誰もが同じ治療を受けられなくなるという不平等論が出ているが、限られた予算の中では一人に効果のない治療をして、助かるはずの命が救えない可能性も出てくるので、公平不公平の議論は意味がない。

 

医療費の問題を、「病気の予防」から対策をとる方が有効である。つまり、予防に力を入れて病院に通う頻度を下げることが最善といえる。日本の場合、高齢者の雇用がキーになる。統計データによると、65歳以上の人は働くことによって、生活機能が充実し、幸せを感じ、寿命が延びるという事実がある。高齢者の就労率を上げることで介護期間を先延ばしし、医療費削減につながるはずだ。

 

ノート3:経済成長

低成長時代というフレーズで、「経済成長は諦めて、貧しいならば貧しい生活をするべきだ」という意見がみられるが、経済のパイが多くならない事態は深刻である。低成長は貧困を増やす。そして貧困は社会的コストが高まることが他国の例で明らかであり、経済の成長は必要不可欠。そして、今の社会保障制度を維持するのにも潤沢な税が必要だ。

 

少子化の中で経済成長するには生産性を高めるしかない。一人あたりのGDPは27位。世界3位の経済大国でありながら、豊かさでは小国の後塵を拝している。OECDのデータを見れば、原因は明らかだ。日本人のリテラシーは非常に高い。世界でトップクラスの頭脳を持っているにもかかわらず、日本政府の教育への支出は先進国で最低レベルである。研究や教育への投資が、生産性拡大をもたらし、年0.6%の成長は見込めるだろう。

 

確かに、「因果関係が不明で、日本では当てはまらないかもしれない」という反論はあるかもしれないが、時間をかけて議論している場合ではない。速やかにこうした分析結果をもとに仮説を立て検証していく必要がある。

 

感想

論理というのは、立場によって理屈を作ることができる。ある程度筋が通るから。しかし、データは事実である。これはどんなロジックよりも強い。そこに因果関係が見当たらなくても相関関係さえあれば、やってみる価値が出てくる。それが統計学の強みだ。ブログでも度々取り上げているが、数字に基づく分析と細かい改善が問題を解決するのには絶対に欠かせない。どこにどれだけ時間とお金を投資すれば効果が出るのか。延々と議論するよりもはるかに効率的なのだろう。

 

我々のような一般人が、社会を論じる時はそこまでしなくても良かろう。あれこれ喋っているのが楽しいのだから。事実で語られたら、何も言えなくなるのでは会話は味気ない。でもせっかく学んだのだから、次回、友人と飲むときには『日本の統計』と電卓でも持って行くとするか。やつめ、きっと面食らうに違いない。