ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

もしかしたら自分も…『愛着障害の克服』を読む。

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知り合いが、うつ病の一歩手前であると診断され休職しているそうだ。「一歩手前」とはどういうことかよくわからないが、友達がそう知らせてくれた。しばらく会っていない人の近況をこういう形で聞くのは良い心地はしない。

 

あんなに明るい男が、まさか、と思ってしまう。あまり深く突っ込んで聞くのもどうかと思い、「それは大変だ」とだけ返したが、職場の人間関係が原因らしい、と友達は付け加えた。上司に毎日のように怒られたのか、同僚から嫌がらせでも受けているのか、あれこれと想像をめぐらせてしまう。

 

 

そういえば、弟もかつてそれらしき病気にかかり、クリニックで薬をもらっていた。今でも服用しているという。精神的な病気というのは薬では治らないものなのか。環境が変わったらどうなのか。時間が解決するものではないのか。うつ病は歴とした病気だから、「人間関係なんてみんな煩わしく思っているよ」、とか「ちょっと怒られたくらいで情けないな」など、精神的な弱さを指摘することは的外れだ。

 

人間関係によるストレス、激務による疲れ、金銭トラブル、大切な人との別れ、生きていれば辛い目に遭うのは避けられない。でもその都度、病気にかかっていたら身が保たない。何か策はないものかと考えていたら、本書が目にとまった。

 

精神科医である著者が、実際に診療したいくつものケースを紹介しつつ、愛着の重要性を説いている。精神的な病気は本人よりも、本人の周囲の人が愛着を改善しないと解決できない問題だという。

 

ノート1:愛着アプローチは万能である

愛着とは、愛着理論のことである。特定の養育者との親密な結びつきが、幼いこどもの発達や安定に重要な役割がある。親子の関係が安定しているか、していないかが、成人後の行動や心理に大きく影響するのだ。この関係が愛着であり、これが不安定であると愛着障害といわれる。

 

愛着障害を克服することで、症状や問題の種類に関係なく、ほとんどの状態で改善が見られる。治療が困難だといわれる症状にも有効であると実証されている。愛着というものが、人間の安心感、健康上の土台になっているからである。また生理学的に、ストレス軽減効果のあるオキシトシンが愛着アプローチによって分泌することもわかっている。

 

ノート2:医学モデルと愛着モデルの違い

医学モデルでは、「病気が症状を引き起こす」と考えるのに対して、愛着モデルは「愛着のダメージがストレス耐性や適応力を弱め、症状を引き起こす」と考えている。症状の根本的な問題は愛着障害にあるという見方をする。

 

医学モデルは、症状にあわせた処方箋を出すのに対して、愛着モデルでは、症状にとらわれず「人間本来の生き方を取り戻す」作業に力をいれるのだ。それゆえ、医学モデルでは症状がある本人を「患者」として、その人にフォーカスするが、愛着モデルでは本人以外へのアプローチを試み、本人との関係改善を促す。場合によっては、本人に対しては何も行わない場合もある。

 

愛着障害は、関係しているほとんどすべての人に当てはまる。患者の両親も、実は愛着障害を持っていて、それが原因で自分の子どもと正常な関係が築けないケースもある。愛着障害を考える上では、不安定な愛着は代々受け継がれる可能性が高い。

 

ノート3:安定した愛着と不安定な愛着

安定した愛着とは、親が子どもの「安全基地」として機能していることだ。安全基地とはその名の通り、困ったときの最後のよりどころだ。ここにいれば自分の安全が保障されるという安心感と言える。否定や批判をされず、何があってもありのままの自分を受け入れるくれる場所。そこに安定した愛着が生まれる。

 

安定した愛着の中で育った人は、相手の気持ちがわかる感受性、求めることに対する応答性、自分の置かれている状況を客観的に分析するメタ認知力、自分を振り返れる自省力が高くなる。それを持っていれば自分も誰かに対しての「安全基地」になれる。

 

不安定な愛着とは、自分の安全が脅かされる親との関係性である。子どもへの虐待、無関心だけでなく、理想を押しつけたり、できないことを叱りつけたりすることでも、子どもは「自分という存在が脅かされる」恐怖にかられる。自分にとって最後のよりどころである親にも安心感を持てなくなることで、過剰に感情を出して訴える、仮面をかぶって良い子を演じる、誰も信用しなくなる、平気で嘘をつくなど、徐々に心の平静が失われていく。

 

成人になってからも、愛着障害がある人は、極度の不安・恐怖にかられたり、急にキレ出したり、人をだましたり、誰とも関わらずにいたり、精神的な障害に結びつきやすい。

 

ノート4:安全基地になるには

安全基地で育った人は自然にできていることだが、そうでない人も心がけ次第で誰かの安全基地になることはできる。例えば、以下の事を実践してみると良い。

 

・否定・批判をせずに耳を傾ける。

・相手が何かを言ったら、反応する。

・求められていること以外は言わない、しない。

・時にはほうっておく。

 

身近な人が、精神的に不安定であれば、親、もしくは親以外の第三者が彼、彼女の「安全基地」になってあげることが重要なのである。

 

 

職場での人間関係が問題で転職を繰り返す人を知っている。どこに行っても上手くいかないのは、職場の関係ではなく、人間関係で疲れたときに慰めてもらえる場所がないからなのかもしれない。自分を大切にしてくれる存在があれば、乗り切れることもあるだろう。

 

恥ずかしながら、弟が精神的に不安定な時に、自分は無関心を決め込んでいた気がする。もう少し親身に話を聞いてやればよかったと後悔した。知り合いの彼にはぜひとも、心のよりどころを見つけて欲しいものである。

 

病院にはかかったことがない私だが、愛着障害の症状に心当たりがあった。回避型だ。あまり愛着を求めない。人とは一定の距離を保とうとする。深く詮索されるのはいやがる。困ったことはできるだけ後回しにして回避する。まさしく自分のパターンではなかろうか。だから弟の件も無関心だったのかもしれない。

 

回避型のように自分の本音を打ち明けられない場合には、書くことが浄化作用として効果的だ。心に抱えた気持ちや考えを鬱憤として放出してくれるそうだ。ノートは物言わぬ相手なのだ。自分の心の安定のためにも日記はつづけた方が良さそうだ。