ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

モノが売れない時代への対応策『売る力』を読む。

仕事帰りに必ずセブン・イレブンに立ち寄る。目的があって入る場合もあるが、ほとんどはふらっと立ち寄るのだ。何も買わない日もある。

 

少し雑誌を読んで、飲み物を眺め、たまに発泡酒をとり、弁当コーナーへ向かう。新商品が出ていると、ついついそれを買ってしまう。コンビニ弁当は塩分が多いから控えなさいと言われたのは、ずいぶん昔のような気がする。健康志向の商品が増えたおかげで、「家ですっからかんの冷蔵庫から何か作るより、コンビニのサラダ買った方が健康的だ」と開き直れるようになった。そして最後に、別腹と言わんばかりにデザートもチョイスする。別にやましいことはないが、一人でぶらぶら立ち寄る罪悪感が脳裏をよぎり、奥さんのスイーツも手にとってしまうのだ。

 

家計が苦しい時は、携帯の料金プランを見直したり、車を使わず自転車で通勤したりしてあれこれ節約をするものの、一向に財政が上向かないのはもしかしてセブン・イレブンのせいなのではと思い始める。今年は、カリスマ経営者である鈴木敏文氏が第一線から退くというニュースがあった。ここまで私をコンビニ依存症の一歩手前まで追い込んだ、彼の経営手法を知りたいと思った。ATMを導入したり、カフェやドーナッツを販売したりと次々と新しいサービスを開発してきた鈴木氏の成功の極意は何なのだろうか。

 

ノート1:消費者の理解

 モノが売れない時代にどうやって、消費者に買ってもらうのか。鈴木氏の答えはこうだ。「お客さまの立場で」あらゆる面から徹底的に追求してサービスを作る。決して妥協しない。鈴木氏は今の消費者の動向や心理を次のように理解している。

 

お客さまにとって「いいものはすぐ飽きる。」毎日、高級料理を食べると普通の食卓のごはんが食べたくなるように、いいものには飽きがくる。言い換えれば、売れる商品こそ飽きられやすいのだ。だから商品の改善は常に必要である。飽きるころに次のヒット商品が出てくるようにサイクルを回す。

 

お客さまは、「本当に欲しいものを知らない。」こういうのがあったらいいなとは思っていてもそれがどう形になるかはわかるわけない。そこは商売のプロ。先回りして、「こんなのあったらいいな」を拾い、商品・サービスにしなければならない。消費者の心理を知るには、売り手は常に消費者でなければいけない。

 

お客さまは「してもらった満足」より、「してもらえなかった不満足」を大きく感じる。いわゆる損失回避の心理である。だから、「欲しい時に売ってない」は一番よくない。いかに満足させるかよりも、不満足を解消してあげられるかに注力する。そのため、セブンイレブンでは挨拶やクリンリネスなど基礎の徹底を行っている。

 

ノート2:売り手の姿勢 

お客さまの心理を理解したら、売り手はどう行動に移すのかが次の段階だ。

 

売り手は、仮説を立てて勝負し、検証をしなければならない。お客さまの生活や行動心理を想像しながら仮説を立てる。データも大事だが、あくまでデータは過去の実績。まずは自分の頭で仮説を立てることからスタートする。

 

売り手は、周囲から反対されたり、協力を断られたりしても実現のためにあらゆる手段を尽くす。なければ自分たちだけでも断行する。行動は徹底して妥協しない。ただし、無謀にならないように7割くらいの勝算があることに集中する。

 

売り手は、お客さまのためにではなく、お客さまの立場でサービスを売る。これは絶対お客さまのためになるはず、というのは売り手のエゴである。「自分がお客さまだったら」を常に考える人の方が売れる。

 

 

カリスマだけあって彼のエピソードもさることながら、登場する他の経営者やデザイナーも凄い。人望の厚さも伝わってくる。セブン・イレブンの成功は組織ではなく鈴木氏の力のようにも感じる。カリスマが去ってこれからどうなっていくことやら。

 

まさか、流通界のドンが一度も売り場を担当したことがなかったとは驚きだ。すべての部署を経験させるとかいうのが日本組織では当たり前のような気もしたのだが、現場を知らない社長っていうのもいるのだ。

 

彼も言っていたが、そうした現場の経験がなかったからこそ、売り手の気持ちよりも、消費者の心理に近い状態でいられたのだろう。業界に染まっていけばいくほど、売り手の人間になって消費者の目線がぼやけてしまう。

 

幸い、私も今経営していることはほとんど素人に近い。ここは一つ、偉大なるカリスマ経営者を気取って、周囲の反対を物ともせず、大きな改革をしてみるか。本書でせっかくいいことを学んだのに、形から入ろうとするお調子者の自分が時々イヤになる。やっぱり権威に弱いのは親譲りなのだろうか。