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ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

『仮面の告白』を読む。

思想 小説

誰にも言えない秘密をもっているだろうか。それがもしも、性に関することだったら。知り合いにやたら風俗好きの男がいて、全国津々浦々、出張のたびに夜の街に繰り出しては、お店を探す。本人いわく、「やっぱりプロは違う。」そういう訳で、彼女との夜の営みよりも、風俗での体験が勝るのである。もはや彼女の前では起ちもしないそうだ。そうすると、好きな人と、したい人は別ということになる。それを恥ずかしげも無く私に言ってくるあたり、自分を特別な人として見てくれているのだろう。「コレは秘密だよ。」と言っておきながら、結構周りに話している。回り回って、彼女の耳に届かないことを願いたい。

 

三島由紀夫の自伝的小説『仮面の告白』を読んでいてふと、知人を思い出した。そんな知人の秘密以上に、主人公(おそらく三島本人であろう)の抱える性なる秘密も驚嘆を禁じ得ない。

 

私にとっての三島由紀夫のイメージは、右翼であり硬派であった。角刈りにはちまき、学生服といった出で立ちで、日本国の将来を憂い、自衛隊を決起させまいと自ら日本刀で腹を切って自殺した。そんな男の裏の顔とでも言おうか、本当の彼の姿はそのイメージとは正反対のものであった。仮面をかぶった男の大胆な告白だ。

 

ノート:ざっくりと『仮面の告白』の主人公について

・幼少期からひ弱で華奢な男の子だった。

・祖母にかわいがられたため、両親からの愛情が届かず、祖母の歪んだ愛情によって育てられた。祖母の好きなものが、自分の嗜好に反映されている。

・子供のころ女装をして、母親をしらけさせた。

・死にあこがれを抱きつつも、戦時中の徴兵制においては、虚弱体質と仮病によって兵役を逃れた。

・筋肉ムキムキの男にあこがれる。いつしか性的な対象へと変化している。ダビデ像とかでオナニーしている。

・汚穢屋のふんどし姿、同級生の懸垂しているときに見える脇毛、軍人の汗のにおい、こうしたものに興奮を覚える。

・恋愛も奥手、好きな人は女性、でも性的な対象は男性。女性の前ではインポテンツ。それを克服しまいと、挑戦はするものの不発に終わる。

・結局、彼女とも結婚できず、破局するはめに。

 

さすが世界のミシマと言わせるほどの、リアルな描写。あまりに生々しく表現するので、読んでいる自分が恥ずかしくなるくらい。主人公はそんな自分の秘密を、恥だとも思っている。だから、周囲にバレないように上手くごまかしながら生きていった。普通と違うことを「恥ずかしい」と思う気持ち。この気持ちは現代であっても変わらないのだろうか。

 

たしかに、今は例えばセクシャル・マイノリティ(LBGT)の一般的な理解が進み、様々な性の形を受け入れる環境は整いはじめている。男性に性的関心を持っていた主人公は現代で言えばゲイか。性には色んな形があってもいいよ、と世間が言ってくれたら彼も、自分の性を堂々と告白できたのだろうか。

 

三島の時代には、戦時中という独特の全体主義的空気があった。そこでは日本男児のあるべき姿が示され、男らしさを強要される時代だった。そして、家族への影響も大きかったと思われる。いわゆる世間体というやつだ。こうした背景が、自分の異なる性の嗜好性に関して、堂々と公言できない理由だったのではなかろうか。

 

現代にはそんな空気は全くない。テレビでは、マツコ・デラックスミッツ・マングローブなど女装家が異常なくらい人気者だ。マツコが「いい男に抱かれたい」と言ったって、今や日常茶飯事だ。自由主義の普及とセクシャル・マイノリティへの人権保護が、こうしたタレントを輩出する要因になったのかもしれない。自由とはなんと素晴らしいことか。もし三島が現代に生きていたら、人目を気にせず、誰にも非難されることなく女装して、マツコの席に座っていたのかもしれない。世の中は少しずつ、良い方向に進んでいるのだ。マツコをテレビで見るたびに、『仮面の告白』の主人公への同情は大きくなっていくばかりだ。

 

それにしても、私の知人が抱える性なる秘密は、同情に値しないし、かえって秘密は秘密のままにしておいたほうがよいだろう。

 

仮面の告白 (新潮文庫)
仮面の告白 (新潮文庫)
posted with amazlet at 16.09.19
三島 由紀夫
新潮社