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ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

破滅に向かって 『卍(まんじ)』を読む。

依存を克服するのは難しい。私の場合、ちょっとしたアルコール依存症だったのではないか。無論、医者にかかったことはないのだが。一時期、毎日後輩と飲み歩くことがあった。遅いときには朝方5時くらいまで。最後のほうは意識があまりなく、ベッドに倒れ込み、出勤までの2時間くらい寝て、シャワーを浴びたり、コーヒーを飲んだり、香水をふったりして、抜けたか抜けなかったわからないアルコールの臭いを取り除き、青白い顔で会社に向かった。

 

さすがに身が持たないし、堕落していく意識があって、何度もやめようと思ったのだが、意識下ではまた酒を飲みたいとの欲望が渦巻いていた。そんなとき、言い訳に使ったのが一緒に飲む後輩だ。彼に誘われたら断れない、彼の悩みを聞いてあげることで「自分はいいことをしている」と言い聞かせて、約1年、平日はほぼ毎日、夜中まで飲み続けた。彼が何を考え、私を酒に誘い、へべれけになるまで飲み続けたのか、それはわからない。幸い、彼が異動し、破滅への道を逃れられた。健康診断でも異常は発見されなかった。久々にその後輩から連絡が来たので、依存について考えてしまった。

 

私の場合、環境が変われば自分の意思でやめることができたが、本物の依存症患者はそれもできないくらい、依存の対象物がなくなったら生きていけなくなるそうだ。

 

谷崎潤一郎の『卍』を久しぶりに読んだが、女性同士の恋愛と、一人の女性をめぐる男女の交錯する思惑を依存という角度から読めてしまった。

 

ノート:あらすじ

弁護士・柿内孝太郎を夫に持つ園子は、自身が通う芸術学校で美しい美貌を持つ徳光光子と恋に落ちる。夫婦関係を続けながら、園子は光子と関係を持つようになる。一方、光子も園子との同性関係を持ちながら、綿貫という男とも付き合っていた。

 

その事実がわかったときから、光子をめぐって園子と綿貫は激しく互いに嫉妬し、対立を深めていく。光子は綿貫が性的不能であることから別れようと、園子を利用して「同性愛者」であるフリをしたり、「妊娠で苦しんでいる」と芝居を打ったりして、園子を巻き込んでいく。

 

園子は光子に利用されているだけかもしれないと、疑心暗鬼になりながらも、それを口実に、光子が頼れるのは自分だけという意識をもって、綿貫を駆逐しようとする。綿貫も同様に、光子の画策を恐れながらも、園子を陥れ、光子を自分のものにしようとする。

 

綿貫が仕掛けた罠にはまってしまったとき、園子と光子は二人の関係を守るために”自殺未遂”という芝居を打つ。しかし、一緒に飲んだはずの薬が自分にだけ効いていたこと、そして彼女が昏睡している間、夫である柿内孝太郎と光子が関係を持ったことを、園子は知る。光子への疑念が膨らみながらも、なお光子から離れたくないと思うようになる。

 

孝太郎が光子との関係に入ってきたことにより、綿貫が離脱し、柿内夫婦と光子の三角関係が始まる。しかし、この一部始終が新聞に出回ってしまった。それを受けやむなく3人で自殺を図ろうとする。しかし、園子だけが生き残った。生き残った園子は、光子と夫・孝太郎が自分を欺いて一緒に死んでいったと思い込み、悔しさをもって生きていくことになった。

 

感想 

自分は駄目になる。この人といたら利用されるだけ。それはわかっていながらも、結局それを言い訳に自ら破滅の道に進んでいく。そこまでいくと依存というより、中毒だ。人間とは実に弱い生き物だ。特に、人との関係は相手の心の内を知る術はない。真実はどうであろうと関係ない。思い込んだらそれが真実だ。本当に、光子と孝太郎は画策して園子だけ助かるように仕向けたのか。自殺未遂を演じたとき、本当に光子は園子を殺そうとしたのか。そうだと言えばそうだし。そうでないと言えばそうではない。

 

光子という女の傍若無人ぶりが半端じゃない。特に、柿内夫婦との三角関係になってからはわがままし放題だ。わかっていながらも、気にせずにはいられない、愛さずにはいられない。そんな魅力があるのだろう。弁護士が理性を失うくらいだ。何かにハマることは恐ろしい。

 

後輩から、久しぶりに飲みに行きましょうと誘われた。お酒で酔っ払うと気持ちがいい。でも私は彼に溺れているわけではない。こんな小説みたいになるのはまっぴらだ。思い詰めるほどのことではないが、この小説を読んで後味が悪かった。今回は忙しいと言って断っておこう。

 

卍 (新潮文庫)
卍 (新潮文庫)
posted with amazlet at 16.10.16
谷崎 潤一郎
新潮社