ばんちゃんの読書日記~新書・文庫篇~

読んだ本の感想や勉強になったことをメモするための読書日記です。

名探偵の頭脳が欲しい 『シャーロック・ホームズの思考術』を読む。

新しい『相棒』シリーズが始まる。今年で15年目だそうだ。去年から反町隆史が出演している。『ビーチボーイズ』世代の私としては、反町が相棒になったことで俄然、毎週欠かさず見るようになった。今回の役では、歳を重ねた大人カッコイイ感じと、『GTO』の鬼塚を演じていた時のおちゃらけた感じが絶妙で、はまっていると思う。

 

とはいえ、『相棒』の見所は、天才にして変人、和製シャーロック・ホームズの異名を持つ杉下右京だ。抜群の推理力で難事件を次々に解決していくのがドラマの醍醐味だ。私も、毎回犯人を推理するのだが、キャスト、役どころ、登場シーンなど、本筋とは別の角度から推理して勝率は3割だ。少々卑怯な気もするが、当たっていたらドヤ顔で奥さんに「すごいだろ」と自慢してみる。的外れな推理に彼女は閉口して、見終わるやいなや、静かに子どもの眠る部屋へ去って行くのであった。

 

子どもの頃、探偵に憧れていた。どうしたらシャーロック・ホームズみたいになれるのかと。どうやったら、ちょっと話しただけで人の嘘を見破れるのか。いかにして見た目だけで、ワトソン君がアフガニスタンから帰還した軍医だとわかるのか。彼の洞察力や推理力を自分も欲しいと思っていた。格好良さに憧れた子どもの、ある種の願望だと思っていたが、どうやら違うようだ。今でも『相棒』を食い入るように見ている。推理小説も好んで読む。ないものねだりは人の性。頭脳明晰な人間になりたい。格好良いからではない。自分が抱える課題を解決したいからだ。ホームズのように視点を変えられたら。杉下右京のようにその人の性格を見破られたら。

 

私と同じ願望を抱いている人間はいるもので、著者もその一人だろう。ジャーナリストである彼女の著書は、脳科学や心理学の理論・研究をベースに、『シャーロック・ホームズ』でのホームズの推理手法を詳しく分析している。様々なシーンを例に取りながら、ホームズの思考回路を紐解いていく。

 

ノート1:ホームズとワトソンの違い

相棒のワトソンの思考をワトソン・システム。ホームズの思考をホームズ・システムと名付ける。別にワトソン・システムが全く駄目だと言っているわけではない。本来、一般的に備わっている脳の働きの結果であり、落胆は不要だ。

 

【ホームズ・システム】

  1. 注意力があり、意識しながら観察する。
  2. よく考えてから行動や発言をする。
  3. 事実と解釈を区別できる。
  4. 頭の中の知識や体験を整理していて、必要な情報を必要な場面で選択できる。
  5. バイアスがかかることを理解し、意図的にバイアスを取り除いている。
  6. できるだけ中立の視点から物事を見る。
  7. 一つのことのみに集中する。
  8. 論拠を積み重ねて真実にたどり着く。

 

ワトソン・システム】

  1. 漫然と見ているだけ。
  2. 瞬時に答えを出そうとする。
  3. 事実と解釈がごちゃまぜになっている。
  4. 知識や体験が整理されていないので、欲しい情報を選択できない。
  5. 認知バイアスに陥っていて、簡単に結論に飛びつく。
  6. 完全に主観で物事を見ている。
  7. あらゆることに注意を払って、結局何にも注意を払えていない。
  8. ストーリーありきで、それにふさわしい論拠を探す。

 

ノート2:ホームズ・システムを作るには?

【ステップ1】自分を知る:自分の目的・目標を確認し、書き留める。

【ステップ2】観察する:目的をもって注意深く、思慮深く見る。

【ステップ3】想像する:様々な可能性を頭の中でめぐらせ熟考する。

【ステップ4】推理する:観察したものから可能性を出し、もっともありそうなものを選ぶ。

【ステップ5】学習する:このプロセスを繰り返し試す。

 

ワトソン・システムに陥っている人は、日記やライフログを書くと良い。習慣的に同じ行動、思考をしているかがわかる。また、他人からのフィードバックも大切だ。自分の思い込みが間違っていることを、自分で指摘することは不可能だ。だから議論や共有が必要なのだ。

 

なぜ普通の人はワトソン・システムなのか。それは、すべての事を深く考えて行動することが脳や体に悪い影響を及ぼすからだ。考えすぎることは日常生活では不便だ。そして疲れる。だから経験や知識をもとにオートマティックに行動したり、考えたりする脳の働きが発達したのだそうだ。だから、ワトソン・システムが完全になくなることはない。なくなっては困るのだ。

 

ホームズ脳が必要なのは、大きな問題に直面したときだ。ビジネスでも、人間関係でも、問題は尽きることはない。そんな時こそ、思慮深く落ち着いて解決したい。正しい推理のもと、正しい判断を下すには、ホームズ・システムが欠かせない。

 

自己診断したところ、私にはまるっきりホームズ・システムが欠けている。これだけ推理小説を読んでいるにもかかわらず、完全なワトソン型とは自分の学習能力のなさに嫌気がさす。

 

ライフログを作り、習慣的な自分のクセを把握する。

・集中して一つの事に取り組む。

・取り組む前に、目的や目標を紙に書く。

・自分の意見を絶対視しない。他人の意見も聞く。

 

このあたりから始めるのがよかろう。最初から、観察・想像のステップはハードルが高い。

 

著者も言うように、何よりも「意識して考える」ことが大切だ。しかもモチベーションを持って。今シーズンの『相棒』こそは、ドラマの本筋から犯人を当てたいものである。それをモチベーションにして、もう一度、ホームズ・システムに挑戦してみよう。